春漂流記

目指すは「無意識」の存在証明。

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06 2010

パンダウサギコアラの話

パンダウサギコアラをご存知だろうか?
若い人では知らない人も多いかもしれないが、1960年代に世界を賑わせた、ある新種の動物についてのニュースがあった。
中国の奥地でパンダの探索及び研究を行っていたイギリス人生物学者ヒーズ=ライアーは、それまでパンダを始めとする世界中の希少動物研究の第一人者として世界的に有名だった。
彼は、パンダの生育地の特定や、パンダが好む味の竹の交配、パンダの愛らしさを心理的に説き明かすなど数々の研究成果をあげていた。
しかしこの、世界を揺るがす新種発見を発表したのを境に、トンデモ学者のひとりに数えられるようになる。
1958年中国広東省奥地において、ライアー博士とその研究室の研究生たち、そして中国軍部による合同調査の際に起こったこの珍獣発見騒動の発端は、同行していたナショナルジオグラフィック誌記者エイルコット=ナイコッツの手記に、以下のように描かれている。

竹林の奥の方でガサガサと草を揺らす音が聞こえた。
その場にいた全員が足を止め、息を飲む。静けさに満ちた竹林に、確かに我々以外の何かが潜んでいるのだ。
銃を肩から提げた兵隊達が、周囲を警戒する。
博士の助手イナーイ=フォントゥワが、現地に住む小数民族の老案内人ユ=ウソンの側に寄り、たどたどしい調子の中国語で何事かを尋ねる。
「………?」
「………!」
イナーイは、一瞬はっとした表情を見せ、それから博士を振り返りこう言った。
「教授!彼が、白黒の模様を見たそうです!」
「確かか!?」
余程のことがあっても、滅多に大声を出さないことで有名な(彼は英国紳士の見本のような男である)ライアー博士が叫んだので、私はまずそのことに驚いた。それから、イナーイの言葉の意味をようやく理解し、もう一度驚いた。
博士がユ老人に走り寄る。博士は滅多に走らない男でもある。
「どっちだ?」
教授が老人に尋ねる。今度はすぐさま通訳が駆け寄る。
「……?」
「………!」
「向こうだそうです」通訳と老人が同時に、私の立っている斜め前方を指差す。
キャンプを出発して10時間、棒のようになっていた私の足に、力が漲っていくのを感じた。
イナーイと数人の学生、そして博士が駆け出す。その手には、麻酔銃が握られていた。私も置いて行かれないよう走り出す。
~中略~
「いたぞ!」
「そっちだ!」
「早いぞ!」
「回り込め!」
林の奥から怒号と共に、麻酔銃の放たれる音が数発響いた。しかし、パンダを捕らえた気配はない。
私は、草に足を取られそうになりながらも、懸命に音のした方へ走った。
私の記憶が正しければ、パンダは非常に大人しく、たかが一頭捕らえるために、大の大人が十数人がかりで竹林を駆けずり回らなければならないような生き物ではなかったはずだった。
それでも、ついに野生のパンダをこの目で確かめる時が近づいていると、何故か確信していた。私はハイスクール時代の初めてのデートと同じくらい、胸の高鳴りを感じていた。カメラを持つ手が汗ばんでいた。
その時だった。私のすぐ前の草むらから、白黒の小さな塊が飛び出してきたのだ。
私は(人生において、あんなに素早く動けたのはノルマンディーとあの時だけだ)咄嗟にカメラを投げ出し、その白黒に飛び付いた。
無我夢中だった。腕の中で暴れる白黒のそれは、最初こそ手足をばたつかせ私に噛み付こうとし、その鋭利な爪で私の眼球をえぐろうとしていたが、観念したのか次第に大人しくなった。
「こっちだ!早く!」
私は息を整える間もなく、必死に叫んだ。
声を聞いて、皆が駆け寄って来る。
私は腕の中で荒く息をするその動物の『長い耳』を掴んで、立ち上がった。
もう一度言うが、長い耳を、である。
全員、目を点のようにして私を見つめていた。いや、正確に言えば、私の手が掴んだそれを見つめていた。
博士が私に走り寄って、私の手からその白黒で耳の長い小さな生き物を奪い取り、こう叫んだ。
「なんってこった!こいつはまるでウサギじゃないか!」
確かに、それはウサギによく似ていた。むしろ、シルエットのみで言えばウサギそのものに見えた。
しかし、その目鼻立ちは、私が幼い頃に動物図鑑で見たパンダのものだった。手足に生えた爪も、おおよそウサギのものとは思えない鋭さだった。
大きさと耳と後ろ脚が長い以外は、パンダだった。
「パンダ、ウサギ?」
イナーイが呟いた。
竹林を静寂が包んでいた。
私は、転がったカメラを拾い上げて(エルンスト・ライツの作ったカメラの頑丈さには感謝しなくてはならない)、それから博士に向けシャッターを切った。
博士の表情は、私がこれまでの人生で撮影したどんな被写体のそれよりも奇妙なものだった。

~エイルコット=ナーイコッツ著「エイルの世界の食卓万歳」より抜粋~

このパンダウサギを、ライアー博士は一応キャンプに連れて帰ったが、軍の司令官は博士がこの奇妙な動物をイギリスへ連れて帰ることに断固反対し、自然に帰すよう迫った。一行は更に1週間、パンダ捜索を続けたが遂に野性の『パンダ』を発見することはできなかった。
後に知ったのだが、実はその一帯(広東省)にはパンダなど一匹たりとも棲息していなかったそうだ。
しかし、博士は捕まえたパンダウサギを周到にも(簡単に言えば、荷物検査の役人と兵士に小金を握らせただけだ)手荷物の中に隠し、イギリスへ向かう飛行機に持ち込んだのだった。
その機内でのこと。博士は老眼鏡を取り出すために革製のバッグを開いた。
覗き込むと、パンダウサギは至極大人しく寝ており、博士はまた奇妙な笑みを浮かべる。
老眼鏡は見つからず、ため息をついた博士はパンダウサギの横に、瓶を見つけた。
彼の生まれ故郷で作られる、琥珀色のアルコール飲料である。
博士は小さく舌なめずりし、顔を上げると、おもむろに右手を掲げ指を鳴らした。
「ちょっといいかね?」
彼の後方で軽く船を漕いでいたスチュワーデスが、慌てて手の甲で涎を拭き、「いかがいたしました?」と博士の横に立つ。
「グラスに氷を」
「かしこまりました」
目にも留まらぬ早さでスチュワーデスはグラスを用意し、博士のサイドテーブルに置いた。
博士はバッグに手を突っ込み、瓶の首を掴んで引っ張り出した。
妙に重い。
博士の手にぶら下がったものを見て、スチュワーデスが叫んだ。
「コアラ!?」
パンダウサギは、その腕と足でしっかりとウイスキーの瓶を挟み込んでいたのだった。
その格好は、オーストラリアに生息する小型の有袋類に、なるほどよく似通っていた。
そんなこんなで、すっかり混乱しヤケになった博士は、機内でウイスキーを一瓶飲み干し、酔った勢いでその生物に名前を付けた。
パンダウサギコアラ、と。

イギリスに戻った博士は、長旅の疲れもなんとやら、気が違ったかのように論文を執筆。パンダウサギコアラを、新種の珍獣として学会に発表したのだった。
この事実に、中国政府は猛反発。阿片戦争以来の大イギリスバッシングに発展する。学会は中国と事を構えたくないイギリス政府からの圧力に屈し、半ば強引に博士の論文を捏造と断定。
博士は学会から追放される。
その後、事態は鎮静化に向かうと思われたが、程なくして論文は珍獣ブーム真っ盛りのヨーロッパにおいて、珍獣マニアやオカルトマニアに支持されることとなる。
結果、博士はトンデモ学者として広く知られることになったのだった。
日本でも、この論文はオカルト系雑誌やテレビで取り上げられ、ネッシーやツチノコ、UFOと並びブームの火付け役のひとつとなった。
しかし1972年、上野動物園に中国から本物のジャイアントパンダがやってきたのとほぼ同時期に、パンダウサギコアラの名前は世界中のメディアから消える(あの、学研ムーでさえ取り上げない徹底ぶりである)。
そうして、パンダウサギコアラは人々の記憶から少しずつ消えていった。

あれから約半世紀。日本において、いや、世界中でパンダウサギコアラが話題になったことを知る者は少ない。
だが、まったく別の形で我々はそのブームの一端を垣間見ることができる。
高田ひろおという作詞家がいる。国民的大ヒット曲「泳げたいやきくん」などの作詞で知られるが、彼の代表曲のひとつに「パンダ・うさぎ・コアラ」がある。
1980年代に書かれ、NHKで放送される「おかあさんといっしょ」などで、今も歌われる児童唱歌の名曲だ。
彼について、こんな話がある。高田がこの詩を書く数日前、東京神田のとある小さな古書店で一冊の絵本を買っていた。1938年、アメリカの動物園で、パンダが始めて中国外で一般公開された時の様子を描いた絵本だった。作詞に詰まった高田は何気なく絵本を手に取りパラパラとページをめくる。そしてその最後のページに、小さな新聞の切り抜きが貼られているのを見付ける。
そこには、「中国奥地で珍獣発見!パンダウサギコアラ」という見出しが躍っていた。
高田はひとしきり懐かしさに浸りつつも、久しぶりに目にした言葉の語感に軽快さとかわいらしさを感じ、その日のうちに詩を書き上げた。高田は、後に友人にこう語っていたそうだ。
「あの日絵本を買うことがなければ、パンダウサギコアラなんて思い出すこともなかったと思うし、この歌もきっと生まれてなかっただろうね。まぁ、あの(新聞の)切り抜きも、いつの間にかどっかいっちゃったけどね」

最後に、ヒーズ・ライアー博士と彼がイギリスへ持ち帰ったパンダウサギコアラのその後について記そう。
学会を追われた博士は精神を病み1962年、自殺を図るが未遂に終わり、博士は療養を経て1970年頃アメリカへ渡った。彼はアメリカで、未確認生物(UMA)の研究に没頭する。
しかし1976年、博士は飛行機でのスカイフィッシュ捕獲に向かったコロラド砂漠で、同行のパイロットと共に消息を絶つ。享年61。
一方、パンダウサギコアラは、博士の研究室を受け継いだ助手のイナーイ・フォントゥワの自宅で飼育されていたが、1973年、家政婦が餌をやろうとした隙をついて檻から脱走。そのまま家を飛び出し、ロンドンの街へ消えた。
2010年現在、一人と一匹の消息は未だわかっていない。





(この記事はあくまでもフィクションです。実在の人物、団体、企業等とは一切関係がありません。)

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Posted by | 03:43 | Comment [0] | TrackBack [0] | 妄想特急

13 2008

桜池

「おい、頭山って知ってるか?」
活字を追うことに夢中になっていた私の頭の上から、先日結婚したばかりの同僚の、湿り気のある声が降ってきた。「え、いや、」読みかけのページに指を挟んで閉じてから、顔を上げる。私の思う、不快感というものを形にしたらこんな顔になるかもしれない、とぼんやり思う。
「あたまやま、ですか。いや、うーん」我ながら頭の悪い返事だ。どこかで聞いたことのあるフレーズだが、思い出せない。仕方ないので、わざとらしく頭をひねって見せる。
「落語だよ、落語」
沖田という名前の同僚は、私のデスクに腰を預けながら、二回目の「落語」で語気を強めた。まるで、「お前はいつも本を読んでいるくせに、物を知らないんだな」と言わんばかりの、いわゆる勝ち誇った笑顔だった。私は、この男が更に嫌いになった。
そこで、私はその「あたまやま」についてはっきりと思い出したが、うなずくより先に沖田が口を開いた。
「頭の上に桜の木が生えて、うるさいから抜いた穴に自殺するんだよ。ここまで言えばわかんだろ?」そんな説明で頭山の何が分かると言うのか。
「ええ、まぁ」
「じゃああれだ、」なるだけ気のない返事を心掛けたつもりだったが、私の意に反して沖田は話を続けるつもりのようだ。「お前、あの話面白いと思うか?」
虚を突かれた気になった。正直、この男は相手に意見を求めるタイプではない、と見ていたからで、素直に驚いた。驚いたついでに「ああ、いや、良いんじゃないですか?シニカルで遊び心もあるし」と、思ってもみない感想だか評論だかが私の口から飛び出した。
沖田の方からしても意外だったに違いない。私がまともに、この男の相手をすることなど今の今までなかったからだ。
沖田は「あ、おお」と小さく声を漏らしたが、またいつも通りの横柄な態度に戻って続けた。
「俺はな、ナンセンスだかシニカルだかなんだか知らんが、ああいう話は嫌いなんだ」
「どうしてです」今度もまたスルッと受け答えの言葉が出た。もしかしたら、私はずっと、この沖田という同僚とコミュニケーションを取りたかったのかもしれない。いや、それはない。
「俺の女が浮気しやがったんだ」
「はぁ」急に話は変わったようだ。
「昨日久しぶりに定時であがったんだがな」
「はぁ」そうですか。
「帰ったら俺の部屋にな、俺の女以外に知らない男がいたんだ」
沖田は淡々とした口調で言う。しかし表情は少し固く、すでに私の方は向いていなく、じっと窓を見ている。私はどういう顔をしているだろう。
「腹が立つとかじゃねえのよ」確かに、沖田が腹を立てているようには見えない。私はうなずき、先を促す。
「まぁ何となく、そんな気はしてたんだが、奴等かなりびびってたな」
そりゃびびるだろう。「そんな状態でびびらないのは、イタリア人くらいでしょう」自分で言ってて何だが、酷い偏見だと思う。
「それは人種差別ってやつだ」おっしゃる通り。
「だがな、その後が傑作だった」
沖田は少し興奮しているようだ。フンと鼻を鳴らし、「野郎、女のスカートの中にかくれやがったんだ」と、面白くもなさそうに言った。
「それは」何と返せばわからないので、「傑作ですね」と、面白くなさそうに言ってみた。
「だろ。で、女は泣いてんだ。どうしたもんかと思ったが、女のスカートの中を思いっきり蹴り上げて」
私は唾を飲み込んだ。
「そのまま飲みに行った」
「酒を」
「ああ」
「えーと、二人は」
「知らん」
沖田は顔を私に向けた。もう興奮していないようで「帰ってないからな」と言い、腰を浮かせた。興奮していたように見えたのは、気のせいかもしれない。
だが、その後「死んだかもしれねぇな」とポツリと言った。
新婚の男に降りかかった哀悲が覗いた気がした。
がしかし、私の興味は違うところに向かってしまっていた。
「あの、」聞かない方がいいのかもしれないが、礼儀のつもりだったのかもしれない。
「何だ?」
「それと頭山に、いったい何の関係が」
こちらを振り返らずに、沖田はフンと鼻を鳴らして黙った。案の定、関係ないのかもしれないと思ったが、「あのな」と沖田は続けた。
「ポテトサラダを頼んだらサクランボがのってたんだ」
「ええ」昨夜の飲み屋でのことだろうか。
「間違って飲んじまったんだ。種」気のせいか、沖田の声は鼻がつまったようにこもっている。
「もし桜が生えたら」沖田は鼻をすすった「頭に身を投げるのも悪くないかもな」

その日も、その次の日も会社に警察が来るなんてことはなく、沖田は相変わらず嫌な奴だ。
だが、彼の左手の薬指には指環がはまったままで、彼の頭から木が生えてくる兆しも無いように見える。

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02 2008

押しつけられる

歯医者では(もうかれこれ15年くらい行っていないので、私はわからないが)、看護士だか歯科衛生士だかが男性患者の顔や腕に、おっぱいを押しつけるという現象が起こるらしい。
同様のことが、美容院のシャンプーでもあるらしい。
そして、これはマニュアルにある行為なんだそうだ。
痛みを和らげたり、リピーター効果を生み出すんだとか。
んな馬鹿な。
歯医者には行かなくても、美容院には行く私ですが、そんな経験ないなぁ…

じゃあ、胸が小さいと歯医者や美容院では働けないのかという話に…(美容院は男性が行く所に限定されるか)

つーか、朝っぱらからこんな…

Posted by | 06:57 | Comment [0] | TrackBack [0] | 妄想特急

30 2008

半月ほど前の出来事

そういえば、9月14日は中秋の名月だったそうだ。
確か、ちょうどその日は、台湾付近に停滞した台風から伸びた雲が西日本を覆っていたため、満月など見えるわけもなかったのだけど、少々変わったことがあった。
家の裏に広がる竹林の奥に、一件のこじんまりとした一軒家がある。そこには老夫婦と、娘と言うには若すぎるであろう女の子がすんでいる。名前は迦具夜とか言う。確か高校生で、たまに電車で一緒になったりもするが、多少お隣りさんという贔屓目があるしても結構可愛い。ただ、少々電波系で、信頼できる情報筋によるとなかなかの小悪魔(笑)らしく、告白してきた男子数人(いずれも金持ちのボンボンだそうな)に無理難題(石油の採掘権とか、ムー大陸の秘宝とか)をふっかけてはことごとく振ったとか。
恐らく老夫婦の孫か親戚の子だろうと思うのだが、だいぶわがままに育っているようだ。
ちなみに、爺さんはその道では有名な竹工芸師で、竹取りの翁だとか呼ばれているらしい。よく百貨店のバイヤーとかコレクターが、うちで道を聞いていく。好好爺の文字をそのまま人の形にしたような、優しい爺さんだ。
それはさておき、先日、竹林の入口辺りを掃除していると、何やら着物を着た物々しい隊列がやってきた。後ろの方に牛車が見えたので、高貴な血筋だかなんだかの一行なんだと思い、箒を抱いて道をあけた。
すると、先頭の馬に乗った男が、私のちらと見て片手を上げ、馬を止めた。後ろの集団も歩みを止める。
何やらよくわからんので、突っ立っていると、馬に乗った男が私に向かって「竹取りの翁なるものの住みたるは、この竹林か」と聞いてきた。
私は、今どきこんな喋り方するやつがいるのかと半ば感心しながら、「ああ、はい。この小道を上った所に住んでますよ」と竹林を上る道を指差した。
男は「左様か」と言うと馬から降り、牛車のところまで駆けて行く。
しばらくして、牛車が近付いて来た。中からひと際きらびやかな着物を着た小太りの男が降りてきて、何人かのお供を従え、竹林の小道を上って行った。そんなにきつい坂でもないのに、フゥフゥと肩で息をしていた。
私は何事かと思ったが、お腹が空いてきたので、箒を引きずりながら家に戻った。あと、小太りの彼は少し痩せた方が良いと思った。
それが9月1日の話。
それから、毎日のようにその集団はやってきて、小太りの男はやはりフゥフゥと坂を上って行く。何だかわからない。もしかしたら、単に彼の運動のためなのかもしれない。ただ、裏の道がお供やら馬やら牛車やらで塞がってしまうので、近所迷惑である。
それから何日かして、迦具夜嬢を電車で見掛けた。彼女は、明らかに不機嫌そうだった。もしかしたら、あの小太りが原因かもしれないと思ったが、よく見ると彼女の肩には女子高生の制服には不釣合いなブランド物のバッグがかけられていた。
その数日後、確か9月10日あたり、今度は婆さんの方にスーパーで会った。婆さんは気さくな人で、よく煮物とか漬物をお裾分けしてくれるのだが、その日は元気がないように見えた。
小太りのことも気になるし、声をかけてみた。
婆さんは弱々しく笑って小さく頭を下げると、深々と溜め息をついた。
婆さん曰く、毎日毎日小太りがやってきては娘を嫁にくれとうるさい。娘にブランド物の服やら鞄やらを買ってくるのは良いが、あまりにもしつこく言い寄るので娘もイライラしている。翁さんの作品を買い付けに来た客を勝手に追い返す。毎日来るので人数分の食事を作るのが面倒。ということらしい。
たしかに迷惑だ。しかも、娘の学校にまで押し掛けて来る始末で、学校側も困っているそうだ。
極めつけは、どうやらあの小太りは、軽々しく口にできない高貴なお方であり、だから来てくれるなとは言えない、と婆さんは力無く言葉を切った。
何だかスケールのでかい話だ。
私のような下々の者には、やんごとなき方々の考えはよくわからんが、どうやらあの小太…もとい、かの高貴なお方は香倶夜嬢に惚れ込み、求婚しているということらしい。
ところが、婆さんの目下の悩みは、もてなしにかかる食費と献立であるようで、それはそれで微笑ましい話だとも感じた。
そして、9月14日。その日は朝から風が強くて、せっかくの連休なのに天気悪いし出かけらんないと腐っていた。
部屋の窓から竹林を見ると、竹が波打つようにわさわさと動いている。さすがに台風だから小太りのお方は来ないと思っていた。
だが、昼ご飯の支度をしていると、裏から何か大きな発動機のような音や、キャタピラーのキュラキュラ鳴る音が聞こえてきた。こんな天気の良くない、しかも休日に工事かよと思ったが、時折聞こえて来る声がどこかおかしい。
チャーハンを炒める火を止めて、裏に出てみると、そこには戦車やら対空ミサイルやら高射砲やらレーダーやらがひしめき合い、竹林の入口付近には土嚢を積み上げた陣地ができていた。
陣地や車両の間を兵士然とした男達が歩き回り、皆肩から銃を下げている。
幌やテントが風にあおられバタバタ鳴り、兵士たちの声は更に大きくなる。
非常に物々しい。
軒下でそれらをぼーっと眺めていると、携帯が鳴った。友達から、ボウリングへの誘いだった。私は快諾した。30分後に迎えに来ると言うので、急いで家に入り、チャーハンを作って食べた。
服を着替えている内に、表でクラクションが鳴った。慌てて玄関を出ると、傘を差さないままで車に飛び込んだ。
友達は開口一番に「戦車とかあったけど映画の撮影とか?」と聞いてきたが、私はわからないと答えることしかできなかった。
その日はボウリングの後も色々あって、連休ということもあり家に帰らなかった。
翌日は昼前頃、豪雨の中を家に帰ってきた。
裏の兵士や戦車は跡形も無かった。寝不足だったので、夕方まで寝た。小太りが来たかどうかは寝ていたのでわからない。
その翌日、9月16日。朝の電車で迦具夜嬢を見掛けた。
彼女は眠そうな顔で吊り革にぶら下がっていたが、途中駅で友達と思しき数名の女子高生が乗り込んで来ると急に元気になり、声を立てて笑っていた。彼女の肩にブランド物のバッグは無く、手に学生鞄を下げていた。
小太りは、戦車が来た日以降姿を見せなくなった。迦具夜嬢に振られたのかもしれない。
不思議なのは、最近近所で耳にする噂だ。あの9月14日の深夜、台風の直中にありながら、空が晴れたというのだ。中には、怪しい光を見たとか、UFOが降りて来たとか言う人も現れた。
しかし、それと戦車と小太りがどう関係してくるのかはわからず終いである。
ところで、一昨日、婆さんが茄子を大量に持って来てくれた。畑でこれでもかという程採れたらしい。おかげで私は3日間、茄子ばっかり食べている。

Posted by | 12:22 | Comment [0] | TrackBack [0] | 妄想特急

05 2008

つまりエンドロールの光
絵と文字のまばたき
反転された世界が薄れ
空転する彼の意識
舌を出せ路傍の犬
白衣を破る毛皮の男
脳から背骨を彷徨う亡霊
突き刺さる電波塔
関係ない精神世界
完成間近な無関心
踊るように背中を掻く
演技と狂気と乱拍子
括弧でくくった愛情表現
点で結ぶと見える過去
枡を埋め続けるための性行為
それだけが唯一熱を保ち
白濁して飲み込まれるのをひたすらに待つ
連結された柘榴の実と実
赤く汚れることでしかあなたの存在を確かめることができない
毟り取ったその手で真っ黒な髪を梳いた時
生まれてきたことに初めて喜びを感じ
また一回り躯は小さく弱くなった
詩で呼吸するのに酸素は軽すぎる
柔らかな壁に爪を食い込ませて
優しさを水平に横たえたまま
飾り気のない手のひらを押し付ける
開く扉の先
艶美な匂い
逆流する体液に濡れる睫毛
滴り落ちる悦楽ゆえに拡散する焦点
夢見、固執し、囚われ、縛られ
それでも尚、一つであろうとする
滑稽な執着心を愛と呼び
また讃えずにはいられない

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31 2008

ことのは流星

軌跡と奇跡は似てるよね
一瞬 煌めく輝石のように

仰向けになって 手は繋いだままで
私の右手が 夜空に溶けてゆく
天の川なんて見たことない
君はそう言って 首を振るけど
私ではない想い出の中に
同じようなきらめきは きっと残ってる
せめて10個…いや、1個で良いよ
君が今夜初めて見つける星がありますように
私が今夜初めて見つける星がありますように

そして 祈る涙が頬を伝うように 弧を描く光の糸
「今、見た?」って君のうれしそうな声
軌跡と奇跡は似てるよね
私は何て答えたんだろう
繋いだ手を握り締めて
どんなキセキよりも 君を愛しく思う

軌跡と奇跡は似てるよね
一瞬 煌めく輝石のようなことのは
私は何て答えたんだろう

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18 2008

久しぶりの写真

ここ2ヶ月くらいの写真です。



川底に自転車
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なんとなく格子というか
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桜の下で縄跳び
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竹工芸の街だから
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フンボルトペンギンの漫才
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超ギミック観覧車
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花の命は短いけれど
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大根が生えていた
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デジカメってすごいねぇ。

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